ケインズ経済学 wikipedia|無料辞書
◆ 概要
ケインズ経済学の根幹を成しているのは
有効需要の原理である。この原理は
古典派経済学の
セイの法則と相対するもので、「供給量が需要量(
投資および
消費)によって制約される」というものである。これは、有効需要によって決まる現実の
GDPが古典派が唯一可能とした
完全雇用における
均衡GDPを下回って均衡する
不完全雇用を伴う均衡の可能性を認めたものである
[ひとたび有効需要の原理を受け入れると消費性向と投資量(貨幣供給量・流動性選好・期待利潤率による)が与えられればそこから国民所得と雇用量がマクロ的に決定されることになり、そこでは完全雇用均衡は極限的なケースに過ぎないことになる]。このような原理から有効需要の政策的なコントロールによって、完全雇用GDPを達成し『豊富の中の貧困』という逆説を克服することを目的とした、
総需要管理政策(ケインズ政策)が生まれた。これは「ケインズ革命」といわれている。
ケインズ経済学では
貨幣的な要因が重視されている。このことは、
セイの法則の下で実物的な交換を想定とした古典派とは、対照的である
[フローのみを考慮した古典派の貨幣数量説に対して貨幣の価値保蔵(ストック)機能を重視したケインズは、流動性選好説においては資産保有の形態の選択を問題にしている。ケインズによる貨幣数量説の一般化された記述も参照のこと]。
不完全雇用の原因について、ケインズの『
一般理論』では「人々が月を欲するために失業が発生する」と言われている。これは
歴史的な時間の流れにおける
不確実性の本質的な介在によって、価値保蔵手段としての
貨幣に対する過大な需要
[この需要は「未来に関するわれわれ自身の予測と慣習(calculations and conventions)に対する不信の程度を示すバロメーター」であり、「古典派理論が、未来(the future)については我々はほとんど知るところがないという事実を捨象することで、現在(the present)を取り扱おうとする可憐で上品な技術の一種」であるとしてケインズは批判している。 Keynes, The General Theory of Employment(1937)]が発生し、これが不完全雇用をもたらすとするケインズの洞察を示すものとして知られている
[不完全雇用は、その原因が貨幣賃金の硬直性に求められることもある。しかし『一般理論』では、このような主張が古典派に属するものとしてケインズ自身によって退けられている。]。
◆ 公共投資との関連
ケインズの生きた時代のイギリスでは、経済の成熟化で国内での投資機会が希少になり、また自由な資本移動の下で資本の国外流出を阻止するための高金利政策が国内投資を圧迫するというジレンマに悩んでいた。そこで政府が主導して資本の流出を防ぎ投資機会を創出することで
国民経済の充実をはかることをケインズは考えていた。
もともとケインズは、景気対策として中央銀行の介入による利子率のコントロール(
金融政策)に期待していたが、のちの『一般理論』においては企業の
期待利潤率の変動や
流動性選好などの制約で金融政策が奏効しない可能性を認め、雇用量を制約する生産量の引き上げの方策として公共投資(
財政政策)の有効性を強く主張するようになった
[早坂忠「ケインズ」(1969)中央公論社]。
またケインズの提案は、失業手当の代替策としての性格を持っていた
(当時の失業率は10%を越える状況にあった)。また過剰生産力の問題を伴わない投資として
住宅投資などが想定されていたが、現実においては
軍事支出によってしか完全雇用を達成するに足るほどの投資が政治的に許容されないことをケインズ本人は憂えていた
[浅野栄一「ケインズ一般理論入門」有斐閣]。
◆ ハーベイロードの前提との関係
しかし現実には民主主義的な政治過程の中で、好況時の引締めが政治的に不人気な政策となることが明らかとなり、先進資本主義国において、長期的に政府の財政赤字が累積的に増大するという問題が発生した。
また公共投資がそれを発注する権限を持つ官僚とそれを受注する私企業との間の癒着をもたらし、これらが問題視されるようになった。
これらの想定の背景として、知識階級としての少数の賢人が合理性に基づいて政策判断を下せるという
ハーベイロードの前提がケインズの思想に生きていたと指摘される。
「現代の
民主制の下では政府は権力の保持・奪回のために集団的圧力に屈服しやすいものなのだが、ケインズはむしろ、経済政策を立案する一部の聡明な人々は、選挙民や一部集団からの組織的圧力と衝突してでも必ずや公共の利益のために行動しようとするはずだという歴史的事実に反する前提を無意識のうちに置いていた」と
ジェームズ・M・ブキャナンは語っている。
◆ ケインズの階級観[伊藤光晴「ケインズ」(1962)岩波書店]
ケインズは、企業者と労働者とからなる活動階級 (active-class) と資金の供給側である投資者(債権者)からなる非活動階級 (inactive-class) の二階級観をもっていた
[当時のイギリスで前者を代表していたのは自由党と労働党で、ケインズは自由党の支持者であった。後者を代表する保守党には生涯与することがなかった]。
・ケインズ経済学 page1
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